ミカイル 2009-10-26
3 人中 2人 の方がこのレビューが参考になったと投票しています。
この文春文庫版全八冊を短期間で読破したのはもう三十年近く前だ。これが私の実質的司馬遼初体験だった。
それ以前、「国盗り物語」を手にしたことはあったが、なんともつまらなくて結局読み切れなかった。短いセンテンス、改行の多さ、さっぱりし
過ぎた文体といった司馬のスタイルに馴染めなかったこともあった。それが「坂の上」ではページをめくるのももどかしい、といった熱中ぶりで
全巻読み終えた。「国盗り」から「坂の上」までは何年かあり、私の身にも様々な変化があったからだろう。それから司馬作品をかなり集中的に
読んだ。その後司馬離れの時期があり、さらに司馬他界を機に「街道をゆく」だけ十冊ほど読んだ。現在の私にとって司馬文学は過去のものとな
った。世界観、歴史観といった点で大きくかけ離れしまったのだ。客観的にみても今は司馬の限界や物足りなさを少なからず感ずる。だからとい
って彼の諸作品が価値が低いなどと傲慢なことはとても言えない。私を歴史の世界へ導いてくれた良き水先案内人であったことに変わりはない。
司馬遼太郎が果たした使命もそういうことであったのだろう。なかでも「坂の上の雲」は長く読み継がれるに値する作品である。