overskill 2006-01-02
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歩くという動作は伝統的に『立脚相』と『遊脚相』、
つまり、足が地面についている状態とついていない状態の2つに分類され評価されてきた。
これは患者の歩く姿を、たとえばパラパラマンガのように一瞬一瞬の静止画像でとらえるので、分析する上でわかりやすいのが長所である。この手法は健常者との比較において有効であるが、短所として、部分的な相違に気をとられてしまうと”医学的に正しい”とされる歩行を本人の理解なく強要してしまう可能性がある。
たとえば重篤な症例において、被治療者の期待値(いわゆる健常歩行)と異なる歩容を”回復”と説明することは、良心的治療者が無意識にかかえる心理的重圧であろう。
きれいに歩ける・歩けない、などといった簡素かつ抽象的な表現を超えるためには、治療者と被治療者が観察すべき視点を共有することが必要条件となる。
そこで本書はこれまで見落とされてきた分析上のポイントを指摘することからはじまる。
歩行には個性があり、正常から異常までの境界線には、かなりの個人差・幅がある。そこに個性を認めることは、相手の人格に理解を示すことにつながり、ICFの理念にも合致するものであろう。画一的な”正しい歩行”の型にはめこむ表現を総合的に見直し、『床反力』と『ロッカー機能』という2つの言葉に代表される、実戦的な概念と観察手法の提案は、一度理解すればだれにでも応用できる柔軟性を持つ。(ロッカーはRocker。いわゆるRocking Chair)
歩行に関係する3つの要素としては”人体の関節””地球の重力””床からの反力”があり、唯一目視できるものが関節の動きである。このうち足部接地前後の一覧の動作(かかと〜足関節〜MP関節)を単軸機構として概観する方法は従来なかったものである。
解剖学的関節に対する言及についても、あくまで歩行に対する貢献度からの考察として、単なる構造的解説にとどまらない。本書は歩行という連続的動作の中で、立脚(静)と遊脚(動)の両者が交錯する一瞬のなかに存在する、異常歩行の原因を見出し、解決に導くすぐれた眼力を提供するだろう。
対象年齢・対象疾病は多岐にわたるが、とくに高齢者・脳血管障害・先天性疾患のリハビリテーションのゴールマネージメントに、影響をもたらすはずである。
私個人の変化としては、はさみ足歩行が必ずしも異常歩行とは見えなくなってきた。本人に実害(傷病)のない範囲において、個性の範囲にとどめてよい領域がある可能性を感じることがある。
読者が高いスキルと意識を持って行動し、著者の理念が医療界にとどまらず一般社会に浸透することを期待したい。