3win 2008-03-22
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ブラームスは、良くも悪しくもベートーベン・コンプレックスでした。古典派としてのバランスを大きく崩すことによって結果的にロマン派への扉を開いた交響曲として名高いあの『第九』の名声を凌ぐために、無用とも思える19年もの苦悶と推敲を重ねながら、ブラームスの第一交響曲はようやく完成したといわれています。
今、この交響曲を聴く我々は、当時ハンス・フォン・ビューローが語ったとされる「ベートーヴェンの第10交響曲」という評価がまったく的外れであることが分かります。どの声部もほぼ同等の比重で絡み合う重厚なポリフォニーが併走する魅力がブラ1の真骨頂であり、アンバランスと不協和音(?)に満ちたアヴァンギャルドな第9の系譜とは別物なのです。
『のだめ』でクラシックにはまった皆さんには、ぜひこの違いを聞き分けていただきたいと思います。
名曲だけに名盤といわれるものが数多くあります。カラヤンやミュンシュなど、昔ながらの重厚なブラ1に馴れた耳には、この千秋真一の演奏は、「早っ」と感じられるに違いありません。
私もテレビで見たときはそのように感じました。事実、多くの演奏では第一楽章は13分を超えています。
この演奏は第一楽章が正味12分34秒ですが、これより早いものは、私の知る限り、11分53秒のトスカニーニ盤、12分19秒のレヴァイン盤、12分29秒のベイヌム盤のみです。(各CDの表記は前後の聞こえない音圧レベルの部分を含んでいるのでもう少し長くなります)
第一主題の提示部(ピチカートの寸前まで)は、上記の順に35秒、32秒、33秒、34秒です。
それでもこの疾走感は別格です。アンサンブルの良さがその感覚を増幅しているのでしょうか。以前のレビューに書かれた「多重録音で合成された音源」との誤解もこのあたりから生じているのかもしれません。(ソフトでこの演奏を合成する手間をかけるよりは、実際に演奏した方が生産コストは安いと思います。)
ひとことでいえば、フレッシュな演奏でしょう。スコアとの意図的な違いも幾つかあります。(ライナーノーツにはそのひとつが明かされています。)しかし現代の音楽に慣れた耳には、このテンポの取り方の方がより自然だと思える、そんな演奏です。
比較してはいけないのかもしれませんが、クライバー(息子のカルロスの方)のベートーベンの第5・第7交響曲が登場したときと同じように、不覚にもテレビでこの演奏に触れた瞬間にワクワク・ウルウルしてしまった私でした。あれほど、多くのブラ1を聞き込んできた私が思わず感激してしまったのです。
日本が世界に誇る名演といわれるには、もう少し歳月が必要なのかも知れませんが、私は迷い無くこの演奏をお薦めします。
そしてもし機会が有れば、同様に現代的なレヴァイン盤やかつての名盤ミュンシュ・パリ管盤とも聞き比べていただけたらと思います。